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神戸地方裁判所 昭和52年(ワ)1169号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

「 一 被告は、昭和五一年九月二九日、原告に対し神戸簡易裁判所昭和四九年(ハ)第七四〇号事件の和解調書(以下「本件和解調書」という)にもとづき別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)につき建物明渡の強制執行に着手した。そこで、原告は、昭和五一年一一月八日、神戸簡易裁判所に請求異議の訴を提起するとともに、右建物明渡の執行停止を求め、同年同月九日、右強制執行停止決定(昭和五一年(サ)第四九六号)がなされた。

二 そして、右請求の異議事件(昭和五一年(ハ)第七六〇号事件。以下「本件異議事件」という)は昭和五一年一二月一三日を初回として審理をかさね、被告は昭和五二年六月二三日の第五回口頭弁論において原告の請求を認め、認諾した。

三 本件異議事件の請求の趣旨は左記のとうりで、右和解調書にもとづく執行は許されないことになつた。

被告の原告に対する神戸簡易裁判所昭和四九年(ハ)第七四〇号建物明渡請求事件の和解調書の執行力ある正本にもとづく強制執行は許されない。

四 しかるに被告は右和解調書になお建物明渡の執行力ありとして執行文の付与を受け、神戸地方裁判所所属執行官平野貞夫に委任して、昭和五二年七月一九日、建物明渡の執行に着手し、同年一〇月二〇日、右執行を完了した(以下「本件執行」という)。原告は本件建物でスナツク業を営んでいた。」という事実関係のもとで次のように判示した。

【判旨】

二原告は本件和解調書にもとづく執行の排除を求めた本件異議事件において被告は原告の請求を認諾したにもかかわらず、その後において右和解調書にもとづいてなされた執行は違法であると主張するのに対し被告は本件異議事件において被告が原告の請求を認諾したのは本件和解調書第五項の、賃料債務不履行による契約解除にもとづく明渡義務の執行に関する部分であるが、本件執行は本件和解調書第三項の期間満了による明渡義務にかかるものであつて、さきの認諾とは無関係であると主張する。

和解調書の内容において複数の事由による給付義務を和解条項として表示した場合においては右和解調書は複数の債務名義となり得る部分を含むこととなり、これに対応して右和解調書に対する請求異議も各部分毎に存在し得るところであり、これを区別しないでなされた和解調書に対する請求異議は右複数の和解条項全部についての執行排除を求めているものとみる外はなく、これに対応して条項を特定しないでなされた認諾はすべての和解条項についてなされたものとみる外はない。本件においてこれをみるに<証拠>によれば本件和解調書においては原告は被告に対し昭和五二年二月一日限り本件建物を明渡すべき義務(第三項)および賃料債務不履行による契約解除にもとづき明渡すべき義務(第五項)が表示されているところ、被告は、当初、原告に対し右第五項の条項により本件和解調書にもとづく強制執行におよんだところ、原告から、特に、右条項による執行排除を求めるものであるとの区別しないで、本件和解調書に対する請求異議の訴がなされ(本件異議事件)、右訴訟経過中において第三項に表示する、昭和五二年二月一日が到来し、被告は右を事由に右請求異議の訴の理由のないことを主張して原告の請求を争つていたが、結局、本件和解調書にもとづく執行の排除を求める請求を条項を特定しないで認諾したこと、被告はその後において、前記第三項の条項により本件和解調書にもとづく強制執行におよんだことが認められる。右認定によれば被告の認諾は、その動機の程は別としても第五項の条項による執行排除のみならず、第三項の条項についてもその効力がおよぶものと解するを相当とする。そうだとすれば本件執行は違法といわなければならない。

三原告は被告との間で本件建物の賃貸借関係が存在するにもかかわらず、違法な執行によりその占有を奪われたとして損害賠償・有益費償還および造作買取を請求するので、順次、判断する。

<証拠>によれば原告は、昭和四九年二月一日、被告から本件建物をスタンド経営の目的で賃借し、賃貸借期間を昭和四九年二月一日から昭和五一年二月一日まで二ケ年とする。但し、期間満了の際は、双方協議によつてこれを更新することができると定め、特約事項として神戸市都市計画による立退までの賃貸とする、営業については被告名義とその家号「文福」を使用することを定めたところ、原告が自己名義で営業を開始し、また、店舗を改装したことから、原告から右を理由に契約解除、建物明渡の提訴を受け、昭和五〇年三月二〇日、裁判上の和解が成立し、当事者双方間で、

一 本件建物の賃貸借契約は神戸市都市計画による立退きまでの一時賃貸借であつたことを相互に確認する。

二 賃貸借期間を当初の昭和五一年二月一日までを昭和五二年二月一日までに延伸する。

三 本件原告は本件被告に対し昭和五二年二月一日限り本件建物を明渡す(前記第三項)。

四 賃料その他の賃貸借条件はさきの賃貸借契約と同じとする。

五 本件原告が賃料の支払を二回分以上滞納した場合は本件被告は催告なく賃貸借契約を解除することができ、本件原告は解除の意思表示があつた時は直ちに本件建物を明渡す(前記第五項)。

が約定された(本件和解調書)ことが認められ、右認定に反する証拠はない。被告は本件建物の賃貸借は昭和五二年二月一日限りのものであり、それまでに神戸市都市計画施行に伴う立退請求があればその時点で終了するものであると主張する。しかしながら、右認定事実によれば当事者双方が神戸市の都市計画事業の施行に協力し、右計画履行に伴う立退き請求があれば原告において本件建物を明渡すことを確認し、昭和五二年一月一日を一応の目途としてこれを明渡し期限としたものであることが明らかであるが、それ以上に右賃貸借契約を一時使用の目的でなされたことが明らかな場合であると考えられるような事情を認め得るに足る証拠はない。たとえ、本件和解調書の条項中に「一時賃貸借」なる表現を用い、これを確認することを定めたとしても右表現のみをもつて一時使用の目的でなされた賃貸借契約であるということはできない。そうだとするすれば、神戸市都市計画事業の施行が遅れ、昭和五二年二月一日を経過した場合においても、右賃貸借契約が、右期限到来により、当然、終了するものではなく、借家法の規定による法定更新を妨ぐべき事実の存しない以上、右規定によつて法定更新されるものと解するのが相当である。本件においては右法定更新を妨ぐべき事実の存在について格別の主張、立証もない。このようにみれば原告は本件執行当時においても、なお、被告との間で本件建物について賃貸借関係にあつたものであるから、本件執行によりその占有を奪われたということができる。

(中村捷三)

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